West Bengal, India — 600〜2,000m

ダージリン
の世界

「紅茶のシャンパン」と称される希少な高地紅茶。ヒマラヤの霧と標高が生み出す、世界で最も複雑な香りの秘密を解き明かす。

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認定茶園数
出典: Tea Board of India
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総栽培面積(ヘクタール)
出典: Wikipedia / WIPO
0万kg
年間生産量(2021年)
出典: Tea Board of India, 2022
約0.5%
インド全体の生産量に占める割合
出典: Tea Board of India, 2022

産地 / Terroir

ヒマラヤが
育てる奇跡

ダージリンはインド北東部、西ベンガル州に位置する。北にシッキム、西にネパール、東にブータンと接し、標高600〜2,000mのヒマラヤ東部丘陵地帯に87の認定茶園が点在する。

ベンガル湾からの湿った空気がヒマラヤ山脈に当たり、年間降水量1,700〜2,500mmをもたらす。昼夜の寒暖差が大きく、霧が頻繁に発生する環境は、Camellia sinensis var. sinensis(中国種)の生育に理想的だ。

急峻な斜面は水はけが良く、わずかに酸性の壌土が深い根系を支える。この「テロワール」の複合的な条件が、他の産地では再現できない独特の香味を生み出す。

標高
600〜2,000m
年間降水量
1,700〜2,500mm
土壌
弱酸性壌土
茶樹品種
中国種(var. sinensis)主体
ダージリン地方の茶園マップ

Darjeeling District

West Bengal, India

歴史 / History

1841年から現在まで

英国東インド会社の植民地政策から始まり、独立・有機農業革命・GI保護まで。ダージリン紅茶の歴史は、インドの近代史そのものだ。

1835

英国東インド会社がダージリン地区を領地とする

1841

アーチボルド・キャンベル博士が最初の茶の種を植える(中国種 Camellia sinensis var. sinensis)

1846

キャンベルがレボン(Lebong)に中国種・アッサム種の両方を植栽

1852

タクバル・スタインタール・アルバリに最初の3つの実験茶園を設立。ロバート・フォーチュンが視察

1856

最初の商業茶園が設立される。1866年までに39の茶園が開設

1859

マカイバリ茶園に最初の加工工場が設立される

1885

人口95,000人・100の茶園へ成長。ダージリン・ヒマラヤ鉄道が輸送を革命化

1947

インド独立。英国人が茶園をインド人に売却開始

1953

茶業法(Tea Act)制定。インド紅茶局(Tea Board of India)が監督機関に

1983

ダージリン・プランターズ協会設立。ダージリンロゴ(二葉一芽の女性像)が創設される

1988

マカイバリがインド初の有機認証を取得

1993

マカイバリが世界初のバイオダイナミック認証を取得

2004

ダージリン紅茶がインド初のGI(地理的表示)保護を取得(WTO TRIPS協定に基づく)

2011

EU(欧州連合)でPGI(地理的表示保護)取得

2021

年間生産量701万kg(インド全体の約0.5%)

茶期 / Flush

4つの顔を持つ紅茶

同じ茶園・同じ茶樹でも、摘む季節によって香りも色も味も劇的に変わる。これがダージリンの最大の魅力だ。

セカンドフラッシュ

Second Flush — 5月〜6月

ダージリン最高峰の茶期。ヨコバイ(Empoasca)による食害が引き金となり、植物の防御反応として生まれる「マスカテルフレーバー」が最大の特徴。

フレーバープロファイル
マスカテル・フルーティー・スパイシー
推奨抽出条件
90〜95℃、3〜4分

「紅茶のシャンパン」の名にふさわしい最高品質。世界中のコレクターが争奪する。

水色(liquor color)

4つのフラッシュ比較

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ダージリン茶葉の摘み取り

茶園 / Tea Estates

87の個性、87の物語

Tea Board of Indiaが認定する87の茶園は、それぞれ異なる標高・土壌・微気候を持ち、独自の風味を生み出す。代表的な6つの茶園を紹介する。

マカイバリ

Makaibari

有機BD
標高

1,500m

面積

670ha(茶園120ha)

設立

1859年(工場設立)

風味

繊細なフローラル、ライトボディ

世界初のバイオダイナミック認証茶園(1993年)。インド初の有機認証(1988年)。ダージリン最古の工場を持つ。

キャッスルトン

Castleton

標高

1,500〜2,000m

面積

約400ha

設立

19世紀後半

風味

濃厚なマスカテル、フルボディ

世界最高値のダージリンを生産することで知られる。クルセオン北部に位置し、最高品質のセカンドフラッシュを産出。日本でも最も人気の高い茶園。

ジャンパナ

Jungpana

有機
標高

980〜2,300m

面積

約250ha

設立

19世紀後半

風味

最高級マスカテル、複雑な香り

ダージリン随一のマスカテルフレーバーで知られる。急峻な斜面に広がる茶園で、現在は完全有機農法。専門家から最も尊敬される茶園の一つ。

マーガレットホープ

Margaret's Hope

標高

1,000〜1,800m

面積

約450ha(最大級)

設立

19世紀後半

風味

バランスの良いマスカテル、ミディアムボディ

ダージリン最大規模の茶園の一つ。名前の由来は、英国人農園主の娘マーガレットが茶園への帰還を「希望」しながら船上で亡くなったという伝説から。

ゴパルダラ

Gopaldhara

有機
標高

1,800〜2,200m(最高標高級)

面積

約300ha

設立

19世紀後半

風味

エレガントなフローラル、ハイアルティテュード特有の複雑さ

ダージリン最高標高の茶園の一つ。高地ならではの繊細で複雑な香りが特徴。近年、オーガニック認証を取得し品質向上が著しい。

アルヤ

Arya

有機BD
標高

1,200〜1,800m

面積

約200ha

設立

19世紀後半

風味

フローラル・デリケート、ホワイトティーも有名

バイオダイナミック農法の先駆者。月の周期に合わせた農作業で知られ、独特のテロワールを持つ。ホワイトティーも生産。

マスカテルフレーバーの科学 - ヨコバイと茶葉

Empoasca spp. / Homona coffearia

マスカテルフレーバーの立役者

科学 / Science

虫が生み出す
奇跡の香り

ダージリン・セカンドフラッシュの最大の特徴「マスカテルフレーバー」は、ヨコバイ(Empoasca属)とチャノコカクモンハマキ(Homona coffearia)による食害が引き金となる。

昆虫に噛まれた茶葉は、防御反応としてファイトアレキシン(植物性抗菌物質)を生成する。この過程で、マスカテルフレーバーの主要成分である3,7-ジメチル-1,5,7-オクタトリエン-3-オール2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオールが生成される。

さらに、リナロール・ベンジルアルコール・α-ファルネセン・ネロリドール・オシメンなどの芳香化合物が複雑に絡み合い、「ムスカット葡萄のような」独特の香りを形成する。

出典: Gohain et al. (2012) "Understanding Darjeeling tea flavour on a molecular basis" — PubMed PMID: 22328090

主要芳香化合物

3,7-ジメチル-1,5,7-オクタトリエン-3-オールリナロールベンジルアルコールα-ファルネセンネロリドールインドールオシメン

等級 / Grades

アルファベットが語る品質

ダージリン紅茶のパッケージに書かれた「SFTGFOP1」などの記号は、茶葉の形状・品質・芽の含有量を示す等級コードだ。

SFTGFOP1

Special Finest Tippy Golden Flowery Orange Pekoe 1

最高等級。金色の芽(チップ)が豊富。最高品質のセカンドフラッシュに使用。

FTGFOP

Finest Tippy Golden Flowery Orange Pekoe

高品質のホールリーフ。芽が多く含まれる。

TGFOP

Tippy Golden Flowery Orange Pekoe

芽(チップ)が含まれるホールリーフ。

GFOP

Golden Flowery Orange Pekoe

金色の芽が含まれるホールリーフ。

FOP

Flowery Orange Pekoe

花のような香りのホールリーフ。

OP

Orange Pekoe

標準的なホールリーフ。

BOP

Broken Orange Pekoe

砕いた茶葉。水色が濃く出やすい。

等級の読み方

S=Special, F=Finest/Flowery, T=Tippy(芽が多い), G=Golden(金色の芽), F=Flowery, O=Orange, P=Pekoe, 1=最高品質。 等級はあくまで茶葉の形状・外観を示すものであり、必ずしも風味の優劣を直接示すものではない。

GI認証 / Geographical Indication

偽物が本物より
多く売られる現実

ダージリンの年間生産量は約700〜900万kgだが、世界市場で「ダージリン」として流通する茶の量は生産量の数倍に上るとされる。これは、産地偽装や混合(ブレンド)による偽物問題が深刻であることを示している。

この問題に対処するため、2004年にダージリン紅茶はインド初のGI(地理的表示)保護を取得。WTOのTRIPS協定に基づく法的保護が確立された。2011年にはEUでもPGI(地理的表示保護)が認められた。

Tea Board of Indiaは1983年に「二葉一芽の女性像」ロゴを創設し、英国・米国・オーストラリア・台湾で認証商標として登録。EUでは集団商標として登録されている。

1983

ダージリンロゴ創設

Tea Board of Indiaが「二葉一芽の女性像」ロゴを創設。英国・米国・オーストラリア・台湾で認証商標として登録。

2000

輸出認証制度の強化

Tea Board of Indiaが輸出業者向けの新たなライセンス要件を導入。産地証明書の発行とブレンド禁止規定を設ける。

2004

インド初のGI保護取得

WTOのTRIPS協定に基づき、ダージリン紅茶がインド初の地理的表示(GI)保護を取得。

2011

EU PGI認証

欧州連合でPGI(Protected Geographical Indication)として認定。EU市場での法的保護が強化される。

淹れ方 / Brewing

最高の一杯を
引き出す方法

01

茶葉の量

150mlの水に対して2〜3g(大さじ1杯)のルーズリーフ。ファーストフラッシュは少し多め、セカンドフラッシュは標準量で。

02

お湯の温度

ファーストフラッシュ:85〜90℃。セカンドフラッシュ・オータムナル:90〜95℃。沸騰させた後、少し冷ます。

03

抽出時間

ファーストフラッシュ:2〜3分。セカンドフラッシュ・オータムナル:3〜4分。長すぎると渋みが強くなる。

04

ストレートで

ダージリンの繊細な香りを楽しむため、まずはストレートで。ミルクや砂糖は香りを隠してしまう。オータムナルはミルクティーにも合う。

ダージリン紅茶の一杯

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